赤瀬川原平さんのこと。
Mandala Design sachiです。
今年10月に亡くなった、前衛芸術家であり芥川賞作家でもあった赤瀬川原平さん。
赤瀬川さんは、自分が一番面白がりながら、誰もやらなかったことをやる人だった。こういうタイプの人は、他にいなかったと思う。
何かちょっとしたスキマの面白いことに目を付けて、本にしてくれることはもうないんだ…。ものすごく淋しい。
美術作品の方は、この目で実際には見たことはなかった。
わたしは彼の書く文章がとても好きだった。
行間からじわじわと伝わってくる、赤瀬川さんの飄々とした佇まいみたいなものが。
何となーく脱力系な印象なのに、視点がこの上なく鋭い。
穏やかそうな言い回しながらも、言うことは言う。
そんな感じがした。
大好きなのは「新解さんの謎」。
手元にあるこれ、読んで笑って何度涙を流したことか。
ここでプレビューが読めますよ!
↓
1981年の芥川賞を受賞した、『父が消えた』の最初の場面の一部はこんなふう。
……………
だけど馬糞と馬糞紙の関係については、いまになってもその真相を知らないままでいる。馬糞紙って、本当に馬糞から出来ているのだろうか。
「馬糞紙のことだけどね」
「え?」
「いや、図工なんかで使う厚紙だよ」
「あ、ボール紙でしょ」
「あ、そうだ、ボール紙だったな。ボール紙か……」
「まだ馬糞のこと考えてるんですか」
「いや、ボール紙のことなんだけどね……」
私はまた吊革を持ち替えた。ちょっと目の縁をこすってみたりした。どうもいけない。馬糞のことではないのだった。荷馬車のことなのだった。そもそも動くということなのだ。
……………
引用元
赤瀬川原平さん死去:赤瀬川さんの文体1 – 毎日新聞
これは語り手(赤瀬川さんであろう)と自分より大分年下の25歳の編集者(作家の関川夏央氏の若かりし頃がモデルと言われている)との電車内での会話。もう、この抜粋部分だけで自分には面白い。かわいい。
「あ、そうだ、ボール紙だったな。ボール紙か……」というところの、最後の「ボール紙か……」がいい、と思う。またきっと、何かを考察しかけているところがかわいいな、と思う。しかし、本当になんだってまた、「ボール」紙、というのかな。。ボールというのは段ボールのボールか。段ボール…いけない、こちらも危うく赤瀬川式思考の渦に巻き込まれそうになる。
そこまで言ってなんですが、なんと未読だったので本日ネットで購入。
毎日新聞さんありがとうございます。
『老人力』も面白かったな。
昨今は「雑談力」「鈍感力」など、本のタイトルに何でも「力」をつける世の中になってしまったが、はじめにそれをやったのは赤瀬川さんだった。
人間にとってマイナスである老化現象にあえて「力」をつけてユーモラスに語るのが新鮮だった。
人間も世界ももう少しボケたほうがいい、ということだ。
ー老人力とは物忘れ、繰り言、ため息等、従来ぼけ、ヨイヨイ、耄碌として忌避されてきた現象に潜むとされる未知の力である。ー
路上観察会も面白かった。
超芸術トマソン。トマソンとは街などで見かける、無用の長物。
ー 超芸術トマソン(ちょうげいじゅつトマソン)とは、赤瀬川原平らの発見による芸術上の概念。不動産に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物。存在がまるで芸術のようでありながら、その役にたたなさ・非実用において芸術よりももっと芸術らしい物を「超芸術」と呼び、その中でも不動産に属するものをトマソンと呼ぶ。その中には、かつては役に立っていたものもあるし、そもそも作った意図が分からないものもある。 超芸術を超芸術だと思って作る者(作家)はなく、ただ鑑賞する者だけが存在する。(Wikipediaより)ー
トマソン(階段だけが残された電柱)の例
トマソン第1号・四谷の純粋階段
(赤瀬川原平『超芸術トマソン』より)
引用元
「純粋階段」キャッチコピーにまたくすりとなってしまう。
そして、有名な『宇宙の缶詰』。
『宇宙の缶詰』
1964年/1994年 写真提供:SCAI THE BATHHOUSE
引用元
普通、缶詰というのはラベルが外側についていて、中身がその中に入っている。当たり前だ。
この『宇宙の缶詰』のラベルは、開けられた蓋の向こう側に貼ってあるのだ。ラベルがつけられたあちらが外側ということは…缶詰の中身はこちら側の我々。あなたもわたしも家も空も宇宙も含めてみーんな缶詰の中身なのだー。
自然や建物などを布で包み込む表現活動をしている、世界的な芸術家クリストに会った際、
「自分の方が大きな梱包をしているつもりだ」
と言ったが、伝わらなかった、というエピソードがまた笑えるのだった。
赤瀬川原平さん、沢山楽しませてくださってどうもありがとうございました!
毎日新聞より画像転載
笑顔がほんとにいいです。
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